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ああああ

漫画・本・映画・演劇・その他コンテンツの感想を書く場としてがメイン。日本語の練習を兼ねています。

見えるがゆえに見えなくなる-『恋は光』(秋★枝)(1~4)

ここ数年はもっぱら読書メーターを感想録として使っていたけど、長文で感想を書くことを怠ってきたために色んな力が衰えているような気がするので、読んだ内容のまとめと感想を文章にする訓練を兼ねて時間がある時に漫画の感想を書きたいと思う。


【あらすじ】
「恋をしている女性が光って見える」主人公・西条は、天然貧乏文学美人・東雲に恋をする。交換日記を通じて交友を深めていた二人の仲に、西条の親友・北代と、略奪愛好き・宿木が参戦し、交錯する大学生の恋愛模様を恋愛マスター・秋★枝が描く。

【感想】
そもそも秋★枝先生は、2007年『東方儚月抄』で華々しく商業デビューし、恋愛物の連載をいくつか描き、代表作『煩悩寺』『wizards' soul ―恋のジハード―』などを持つ中堅漫画家である。短編集『伊東さん』の帯で「恋愛マスター」という二つ名を獲得したことから、「恋愛マスター」と呼ばれている。

今作は、「恋をしている人間が光を放って見える」特殊な体質の主人公を中心に微妙に空回りする恋愛模様を描いているのであるが、この「恋愛感情の視覚化」というアイデアは、前作『恋愛視覚化現象』(全二巻)(恋をすると角が生える世界設定)の焼き直しである。ただ今回は少し味付けが変えられている。それは、女性たちが発する「光」が恋によるものなのかどうか保証されていない点である。あくまで主人公が経験的に推測した結果に過ぎない。この「不確実性」が主人公らの人間関係をこじらせるのに役立つ。自分を好きになると思えない人間が光を放ち、「光は自分にとっての危険人物が放つのか?」という疑念が湧いた途端に、想い人から自分に光が送られる。また、幼なじみの持つ恋心には、光が無いため気づかない。なまじ情報があるゆえに、正しい認知が出来ずにいる。携帯電話がフィクションの世界から「すれ違い」を消したと言われる現代に、見事にちぐはぐな思いの交差を作り上げている。

また、秋★枝先生は基本的に悪人を描かない。今作もご多分に漏れずド天然の東雲・超善人の北代・小者の宿木と良い人のお花畑である。主人公西条は視野の狭い臆病ナルシストなので他人を傷つけるようなことはしない。この中で関係をかき回すのは宿木であるが、僕はこの宿木が人間味があって好きだ。欲しいものがわからないから他人の恋人を奪うことで消費的な欲望を満たし、それでいて罪悪感に耐えられず、衆目が気になり、かといって他人のために自分の欲求を諦めることはしない。宿木のお陰で3人の関係が緊張感のあるものに保たれている。無菌室育ちの東雲にビキニを着せ海に連れ行き脳軽チャラ男をあてがうという鬼畜の所業を実行した際は、「なし崩しレイプで東雲闇堕ちか……」と生唾を飲んだが、意外とチャラ男は強引さに欠けたため、秋★枝ワールドは壊れなかった。チャラ男が夏庵式日焼けマッチョだったらこうはいかなかった。

読書好きで思索にふけることが多い東雲女史だが、所謂天然キャラ、世情に疎く思考が一本気、発想が柔軟でない、そういう描写が、あまりに幼く見える上に、性行為を想像し顔を赤らめる一方で、男2女2で無警戒にも海で遊んでしまう無防備さが、少し痛々しい。しかも、彼女は小説もろくに読まないようなチャラ男と同じ大学である。基本的に作中の大学生は目の前の試験をなんとかやり過ごし単位を一通り揃えて卒業することしか頭に無さそうな私立文系クソ大学生ばかりである。頭良いキャラぶんじゃねーよ!同年代の女子と一緒に海に行ってビキニを見たことある人間は全員許さねえ!

また、きっかけとして交換日記で交流を始めた西条・東雲であるが、話が進むにつれてその存在感は低下していってしまった。交流に古風な小道具を使うのは、『煩悩寺』(全3巻)を髣髴とさせる秋★枝先生らしさだと感じる。

最新刊である4巻ではTwitterを通じて主人公と同じ「能力」、即ち「恋をしている女性が発光して見える」症状を持つ少女との出会いが匂わされるのだが、ハッキリ言ってそんな設定に読者は興味が無いのではないのだろうか。少なくとも僕は無い。僕が今作に求めていたのは、秋★枝先生の可愛い絵柄で描かれる女性たちが罪悪感に苛まれたり失恋に傷ついたり恋の成就に破顔したりするさまであって、男の能力の設定なんてどーでもええわ。そういう興味のない部分に話が転がっていってしまうのは悲しいなと感じた。

あと、幼なじみキャラ・北代は、美人・優秀(なお成績)・善良と素晴らしい人間に描かれているが、あまりに自己完結し過ぎであるように見える。「恋が見える」という設定のためいちばん不憫になっている立ち位置だが、その設定がなかったとしてもこんなに自分を殺してしまう性格ではいずれあまり変わらない状況におかれていたのではなかろうか。能力の秘密が明かされて北代が「本当の恋人」みたいになったら最悪だなと思う。個人的には、光云々を理由にして、目の前にいる人間の感情に対して向き合わない主人公の態度は不誠実であるように感じる。不誠実というか、迂遠で時間の無駄かな。

ここから話がどう転がるのかわからないけれど、東雲がポリアモリーを提案し一夫多妻エンドになれば最高だと思う。幸せな終わりばかり描いてきた秋★枝先生が、誰かにとっての悲恋を描いて終わるのかということも含めて続きが気になる作品だ。(2016/05/15)